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田平天主堂

 6月の初め、学生時代の友人たちと長崎の平戸市周辺を訪れました。その地に暮らす友人夫妻がきめ細かな計画を立ててくれていて、長崎の魚で飲めたら満足という程度の雑駁な関心を大いに高めてくれました。中でも「観光コースには乗らないけれど、教会だったらぜひここを見てほしくて」と案内してくれたのが、平戸市田平町にある田平天主堂でした。訪れるまでまったくその名を知りませんでした。一目見て、心打たれました。威容と表現してもいい重厚感あふれる建造物ですが、全体をまとう空気が澄んでいて祈りの場として大切にされていることが伝わってくるのです。ミサの時間は部外者は立ち入ることができませんが、それ以外の時間は中も見ることができます。ただ自由に移動することはできなくて、内部全体を見渡せる一部を歩けるようになっていました。外からは墨絵のように黒く見えていたステンドグラスは、内側から見るとすばらしく色鮮やかで、午後早い時間の強い光を通している南側は神々しい光を放っていました。

 紹介してくれた友人は、「名建築です。」と胸を張りました。その通りだと思いました。松江に帰ってから調べたところ、設計施工は大工の棟梁鉄川与助、大正7年の制作です。興味深いのは、鉄川与助はクリスチャンではなく仏教徒だったことです。どんな宗教であろうと、祈りに対する深い敬意を抱いていたのでしょう。それでなければこんな建築はできないだろうと思いました。国立公園九十九島、平戸の港など名だたる名勝を案内してもらいましたが、私の心にいちばん残ったのは、この田平天主堂でした。決して博物館的な展示ではない祈りを感じさせる場を訪ねることができたことをとてもうれしく思いました。

 機会あらばぜひお訪ねください。

(宮森健次)